■ 通勤や職場での介助を公費で支える仕組み
「雇用施策と福祉施策の連携による重度障害者等就労支援特別事業」という制度をご存じでしょうか。名前は長いのですが、中身はシンプルです。重い障害のある人が働くとき、通勤や職場での介助を公費で支える仕組みです。令和2年10月に始まりました。
■ なぜこの制度が必要だったのか
これまで重度訪問介護(重い障害のある人が自宅などで長時間の介護を受けられる福祉サービス)は、通勤中や仕事中には使えませんでした。制度上、就労に関わる介助は対象外とされていたためです。
その結果、「働きたくても職場にたどり着けない」「職場で介助が受けられない」という人が生まれていました。この矛盾が広く知られるきっかけになったのが、2019年に重度障害のある国会議員が誕生したことです。議員活動中の介助費用が公的補助の対象外になると分かり、大きな議論になりました。その受け皿として国が創設したのが、この制度です。
■ 誰が、どんな場面で使えるのか
対象は、重度訪問介護・同行援護・行動援護のいずれかの支給決定を受けて働いている人です。企業に雇用されている人も、自営業の人も対象になります。
支援の中身は、通勤や業務上の移動の介助、姿勢の調整や排せつ・飲食の介助、代読・代筆・機器操作の補助など。使えるのは勤務中と通勤の時間帯です。
費用は国が2分の1、都道府県が4分の1、市区町村が4分の1を負担します。
■ 前例がない職場や自治体では
この制度は市区町村の任意事業なので、実施していない自治体がまだ多くあります。また企業に雇用されている場合は、企業がJEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)の助成金を活用することが前提になるため、勤務先の協力が欠かせません。
前例がないと、担当者も「聞いたことがない」と戸惑います。ただ、それは制度が使えないという意味ではありません。厚生労働省が実施自治体一覧と事例集を公表しているので、他市の要綱を示しながら相談すると話が進みやすくなります。
■ 神奈川県と藤沢市の実績
では、実際どれくらい使われているのでしょうか。
令和8年3月末時点で、実施自治体は全国109。利用者は364人で、そのうち企業に雇用されている人は187人です。全国で200人に届きません。
神奈川県内の実績は、横浜市4人、川崎市7人、相模原市1人。そして藤沢市は、実施自治体に名を連ねてはいるものの、利用実績は0人です。
制度はあるのに、誰も使っていない。これが藤沢の現状です。
■ 広げていくために
必要なのは、大げさな制度改正ではないと思います。
まず、知られること。当事者も企業も、この制度の存在自体を知らないケースがほとんどです。次に、使いたい人が声を上げること。任意事業は利用希望者がいなければ予算も付きません。そして、企業が一歩踏み出すこと。費用の多くは助成金で賄えます。
藤沢市のように要綱がすでにある自治体なら、新しく制度をつくる必要すらありません。最初の一人が出れば、そこが前例になります。
■ おわりに
働くことは、収入を得ることだけではありません。社会とつながり、自分の役割を持つことです。介助が必要だというだけで、その入り口が閉ざされていいはずがありません。
制度は、使われて初めて制度になります。まずは知ることから始めませんか。