
近年、小田急電鉄は、利用者の少ない駅の駅員配置時間を、短くしているのをご存知でしょうか。つまり駅自体が「無人化」しているのです。
私は電動車椅子を使っており、駅員がいないと電車に乗ることができないので知ることになったのですが、駅には駅員配置時間を知らせる掲示物はごくわずかで、毎日駅を利用する人であっても、駅員がいない時間があることを知っている人は少ないと思います。
そして、今年の4月16日。さらに駅の「無人化」が進められました。中でも、私が日頃利用する本鵠沼駅の駅員配置時間は、以前は7時15分からだったのが、9時35分から12時00分まで、および13時00分から17時50分まで、と大きく変更となりました。
つまり、利用者の最も多い朝の通勤・通学時間に、駅員が不在となってしまったのです。
このような状況に対し、私は小田急電鉄に対して「無人化」の理由について説明を求めたのですが、返答は「人材不足」を理由とするものでした。私が問題にしているのは、駅を無人にすることは、駅全体の安全にかかわることであり、また、何も安全対策を行わずに無人化を行うのは、安全管理を駅利用者一人ひとりに丸投げしているに過ぎないからです。
先日、その本鵠沼駅の改札に、新しくお知らせが貼られていました。これまで1か所だった掲示が2か所に増え、対応したこと自体は評価したいと思います。ただ、その中身はまだまだ不十分だと感じました。
■ 安全については、一言も書かれていない
改札に新しく貼られた掲示には、配置時間と「手伝いが必要な方は事前に連絡を」という内容が案内されていますが、駅員がいない時間に駅の安全をどう守るのかについては、一言も触れられていませんでした。
これでは、掲示が増えても、私が問題にしている安全性の低下は、何も改善されていません。ましてや、最も利用者の多い時間帯に、駅員が常時不在なのです。
急病人への対応だけでなく、ホームからの転落や電車との接触といった、駅に潜む危険を未然に防ぐのは、いったい誰なのでしょうか。
■ 連絡手段にも、穴がある
駅員がいないときは、インターホンで問い合わせるよう案内されています。インターホンは、早朝(始発のころ)から使えると思われますが、押しても、隣の駅から係員が来るのを待つことになります。私が以前、朝に呼んだときは、係員から「朝の時間は忙しいため、多少お待ちいただくことになります」と言われ、乗車できるまで約40分かかりました。
一方、事前の予約先として案内されている小田急お客さまセンターと藤沢駅は、どちらも受付が「朝9時から夕方17時まで」です。駅が無人になるのは、始発から9時35分まで。その早朝に、電話で当日の相談をしようとしても、窓口はまだ開いていません。結局、早朝に駅へ来た利用者に残されるのは、「長く待つ」か「前日までに予約しておく」かのどちらかしかない、ということです。
■ 「掲示した」ことと「周知できた」ことは違う
「周知」とは、“広く多くの人に情報や事実を知れ渡らせること”です。しかし、今回の掲示は、A3程度の白い紙に時間が書かれているだけで、多くの駅利用者の目を引くような工夫はされていませんでした。
困って探した人しか得ることができない情報は、周知とは言えません。私は決して容認できませんが、安全の維持や緊急時の連絡を、実質的に利用者に委ねるのであれば、その情報が広く届いていなければ、いざというときの初動が、大きく遅れることになるのではないでしょうか。
■ 小田急電鉄の経営は苦しいのか?
小田急電鉄の駅の「無人化」の理由は、人材不足というものでした。しかし、雇用条件や待遇が良ければ、人材は集まりそうなものです。では、小田急電鉄の経営は、そんなに苦しいのでしょうか。
小田急電鉄が決算で「交通業」として開示している営業利益は、およそ265億円です(2025年3月期。ただし、この「交通業」には鉄道業のほかにバス業なども含まれるため、純粋な鉄軌道事業だけでは、これよりやや少なくなります)。
また、この交通業(運輸事業)の営業利益率は20%超あり、私鉄の中でもトップ水準です。交通業が事業全体のおよそ4割を占める、鉄道が主体の会社であり、誰もが認める鉄道大手です。
■ 鉄道会社とは
鉄道会社は、単なる私企業として自由に振る舞える存在ではありません。公共の交通インフラを担うことを国から特別に許可され、その許可の前提として「輸送の安全を確保する」という条件を負っています。だからこそ、鉄道事業法は第1条に「輸送の安全を確保し」を目的に掲げ、第18条の2では安全確保を最も重要な責務と定めているわけです。
だとすれば、その安全体制を、対策を伴わないまま薄くしていくことは、単なる経営判断の問題にとどまらず、営業を許された前提そのものにかかわる問題だ、と言えるのではないでしょうか。
■ 犠牲者が出てからでは遅い
鉄道の安全は、誰が確保し、維持するのでしょうか。もちろんそれは鉄道会社であり、駅の利用者ではありません。
そして、事故が起きてから、自ら放棄した安全を見直すのでは、取り返しがつきません。そうなる前に、鉄道会社として自主的に改善してほしいと、私は強く願っています。本当に必要なのは、紙を増やすことではなく、最も人が多い時間に、人がいる駅にすることのはずです。
もし、あなたが毎朝使う駅が、最も混み合う時間に無人だったとしたら。あなたは安心して、その駅を使えるでしょうか。