先日の朝、本鵠沼駅にて駅頭の挨拶活動を行ってきました。これは、約4年前よりJR藤沢駅、JR辻堂駅、小田急藤沢駅、小田急鵠沼海岸駅、小田急本鵠沼駅で毎朝続けてきたものなのですが、実は、先日まで約4ヶ月の間活動を休止していた時期があり、ようやく再開しているのですが、本鵠沼駅に立つのは、その再開後ではこの日が初めてのことでした。
しかし、この日のにこんな経験をするとは…。
そして、私はどうしても納得のいかないので共有させてください。
■ その朝、何が起きたのか
私は毎朝6時半には家を出ます。本鵠沼駅や鵠沼海岸駅に行く日は、本来であれば、自宅から最寄り駅である片瀬江ノ島駅で小田急線に乗るのが、最も早く着く経路なのですが、この2つの駅は、今までは朝7時15分まで駅員が不在のため、前日までに予約をしてなければ乗車させてもらえなかったのです。
もちろん以前に抗議したこともありますが、そのため朝この2つの駅に行く時は、私はいつも自宅から電動車椅子で自走していたのです。
その後、挨拶活動を終えると、出勤のため駅員に頼み、同じ時刻、同じ車両、同じドアに乗せてもらっていました。
しかし、この日は、電車の時刻が近づいても駅員さんは現れず、恐る恐る改札にあるインターホンで尋ねてみることにしたのです。
すると…インターホンの向こうから次のような驚きの案内がありました。
・本鵠沼駅は9時35分まで駅員が不在。
・前日までに予約をするか、藤沢駅の駅員が本鵠沼駅に到着するまで待つ。
・駅員不在に関する情報は、ホームページで告知している。
・人材不足による駅員不在時間の拡大。
・朝の時間帯は忙しいので駅員到着まで時間がかかる。
この案内を聞いて、納得する人はどのぐらいいるのでしょうか?
少なくとも私はその中に入ることはできませんでした。
正直に申し上げると、私が本鵠沼駅から藤沢駅まで電動車椅子で自走すれば、15分ほどで着きます。つまり、駅にいながら電車に乗ることができず、自分で隣の駅まで移動したほうが、はるかに早いのです。おそらく小田急電鉄の方々は、それほど早くもない朝に、いつ来るかわからない駅員を駅で待ち続けなければならない人の気持ちを、想像した事が無いのだと思います。
■ 最も人が多い時間に、駅員がいない
ここから先は、感情ではなく事実と制度の話として整理したいと思います。
本鵠沼駅の1日平均乗降人員(その駅で1日に乗車した人と降車した人を合計した平均値)は、2024年度でおよそ1万3,000人です。決して小さな駅ではありません。しかも本鵠沼駅の近くには私立学校もあり、朝は通学する子どもたちの利用も多い駅です。その利用が最も集中する朝の時間帯に、駅員が不在になっている。
一方で、私が小田急電鉄の公式サイトで確認したところ、本鵠沼駅の駅員配置時間は9時35分から12時00分まで、そして13時00分から17時50分まででした。つまり朝だけでなく、昼の休憩時間帯も、夕方17時50分以降から終電までも不在だということです。隣の鵠沼海岸駅が7時20分から駅員を配置しているのとは、対照的です。
最も多くの人が、そして多くの子どもたちが行き交う時間に駅員を置かず、利用の少ない昼間に人を配置する。これは公共交通機関としての安全への責任の置き方として、どこか倒錯しているのではないでしょうか。もし駅で急病人が出たら、子どもが転落しかけたら、誰がすぐに対応するのでしょうか。無人化のしわ寄せは、車椅子ユーザーのような一部の利用者だけでなく、本来は安全が最も守られるべき時間そのものに及んでいるのです。
■ 「人材不足」ーー問題はそこではない
公平を期すために申し上げれば、私は無人化そのものを頭ごなしに否定したいわけではありません。人材不足は鉄道業界全体が抱える大きな課題であり、現場が苦労していることは理解しているつもりです。問題は、その「順番」と「やり方」にあります。
本来であれば、車椅子ユーザーが誰かを呼ばなくても、安全かつスムーズに乗り降りできる環境を先に整えたうえで、無人化に踏み出すべきではないでしょうか。その整備を行わないまま、「予約すれば乗車できます」という形で負担を当事者の側に丸投げし、周知も十分に行わない。これでは、合理的配慮(障害のある人が社会で出会う障壁を取り除くために、その人の状況に応じて行われる個別の調整)を提供しているとは、とても言えないように思うのです。
しかも、2024年4月から、障害者差別解消法(正式には「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)の改正により、民間事業者による合理的配慮の提供は、努力義務ではなく法的な義務になりました。鉄道会社も当然この対象です。国土交通省も2022年に「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関するガイドライン」を策定し、無人駅であることや事前連絡がないことだけを理由に利用を断らない、という方向性を示しています。法も国の方針も、一方的な掲示ではなく、当事者と事業者が一緒に代替策を探っていく「建設的対話」を求めているのです。
改札でインターホン越しに話した駅員は「ホームページに案内を載せている」と説明されましたが、その案内は各駅ページの下のほうまでスクロールしなければ見つからないもので、最も影響を受ける人に届く形にはなっていませんでした。掲載されているかどうかと、必要な人に届いているかどうかは、別の問題です。
そして、私が思う小田急電鉄の1番の問題点は、小田急電鉄自体の決定によって、このような事態が生じていることを問題と感じていないところです。
■ これは、お金のない企業の話ではない
ここで、この問題を別の角度から見ていきたいと思います。小田急電鉄は、経営が苦しくやむを得ず人を減らしたのでしょうか。
小田急電鉄は、1948年設立、1949年上場の鉄道大手です。直近の2026年3月期(連結)の業績を見ると、売上高はおよそ4,187億円、本業の儲けである営業利益はおよそ527億円に達しています。売上に対する営業利益の割合は約12.6%で、鉄道事業者としては高い水準です。
経常利益はおよそ540億円と過去最高水準で、新型コロナ禍で営業赤字に沈んだ2021年3月期から、営業利益は4年連続で右肩上がりに回復してきました。総資産はおよそ1兆3,935億円、株式市場で評価された会社全体の価値である時価総額はおよそ6,050億円。誰がどう見ても、日本を代表する優良企業の一つです。
その経営姿勢も、株主や従業員にはきわめて手厚いものです。配当は連続して増配され、2026年3月期は1株あたり55円、翌期は60円の予想で、2030年度にかけて配当を増やし続ける方針も掲げています。さらに、200億円・1,600万株を上限とする自社株買いも進めています。
単体従業員の平均年収はおよそ827万円で、これは国の給与所得者の平均(国税庁の民間給与実態統計調査でおおむね460万円前後)を大きく上回る水準です。顧客満足の面でも、2025年度のJCSI調査(日本版顧客満足度指では、有料特急(ロマンスカー)部門で顧客満足度1位を獲得しています。つまりこの企業は、やろうと思えば、お客さまに高い満足を届ける力を十分に持っているのです。
株主には累進的に報い、従業員には全国平均を大きく超える給与を支払い、自社株買いに200億円を投じる。その一方で、1日1万人以上が使う駅の、最も忙しい朝の時間帯から駅員を引き、車椅子ユーザーには前日予約という負担を求める。私は、ここに価値観の優先順位を見てしまうのです。これはお金がないからできない、という問題ではありません。やるかやらないか、誰の安全と利便を優先するか、という経営の意思の問題なのだと思います。
加えて見過ごせないのが、鉄道駅バリアフリー料金制度(鉄道のバリアフリー設備を整えるため、利用者全体から薄く広く料金を徴収する仕組み。2021年に創設)です。小田急電鉄もこの制度に参加しています。すべての利用者からバリアフリーのための負担を集めておきながら、当事者が現に困る無人時間を広げていく。この矛盾を、どう説明するのでしょうか。
■ 公共交通機関の責任とは何か
鉄道は、誰かにとっての贅沢品ではなく、生活そのものを支える社会的なインフラです。だからこそ、鉄道会社には、単に利益を上げるだけでなく、すべての人の移動の安全を守るという、特別な社会的責任があるはずです。高い収益を上げている大企業であればなおさら、その責任は重いと私は考えています。
無人化を進めるのであれば、まず、車椅子ユーザーが誰の手も借りずに安全に乗降できる環境を整え、子どもを含むすべての利用者の安全を確保し、そのうえで丁寧な周知と当事者との対話を尽くす。順番はそこからのはずです。それらを一切行わないまま、「予約すれば乗れます」の一言で一部の人々に負担を背負わせる今のやり方を、私はどうしても認めることができません。
最後に、これだけの利益を上げ、株主にも従業員にも手厚く報いることのできる大企業が、子どもたちが行き交う最も忙しい朝の時間帯に駅員を置かず、車椅子ユーザーには前日予約を求める。もしこれが、あなたの使う駅で、あなたや大切な人の身に起きたとしたら、それでもなお「仕方のないこと」と受け止められるでしょうか。