【就労移行支援事業所の「闇」――支援のふりをしたビジネスが、障害者の「就職したい」という思いを食い物にしている】

■ 「約2割が基準を満たさない」という現実

2026年4月、こんな報道がありました。

障害者の就労を支える福祉サービスのうち、「就労継続支援A型事業所」と呼ばれる施設の約2割が、国の定める指定基準を満たしていないというものです。しかも、基準を満たしていない事業所の6割以上が、前年も同じ状態だったといいます。問題のある状態が「当たり前」になってしまっているのです。

この報道が取り上げたのは、就労継続支援A型という制度の話です。ただ私は、これを読んで別の制度のことを思い出しました。「就労移行支援」です。今日は、そちらの問題についてお話しします。

■ 就労移行支援とはどんな制度か

就労移行支援とは、障害のある方が一般企業への就職を目指すために利用できる、国の制度に基づいた福祉サービスです。原則として2年間、事業所に通いながら、仕事に必要なスキルを身につけ、就職活動のサポートを受けることができます。

費用は収入に応じて決まりますが、多くの方が無料または低額で利用できます。事業所には国から「訓練等給付費」という報酬が支払われ、それが運営費の柱となっています。

全国の平均就職率(サービス利用終了者のうち一般就労に移行した割合)は、令和5年度で58.8%です。就労継続支援A型(26.9%)やB型(11.2%)と比べると高い数字ですが、この平均の裏側には、深刻な格差が隠れています。

■ 「就職率ゼロ」の事業所が約3割存在する

実は、就労移行支援事業所の中で、就職した利用者が一人もいない「移行率ゼロ」の事業所が、全体の約3割を占めています。

一方で、50%以上の就職率を達成している優良な事業所も全体の26%あります。つまり、「積極的に就職に結びつけている事業所」と「ほとんど就職させられていない事業所」が、同じ「就労移行支援事業所」という看板のもとに並んでいるのが現状です。

この格差は、なぜ生まれるのでしょうか。制度の仕組みに、一つの答えがあります。

■ 「就職させなくても報酬が入る」という仕組みの問題

就労移行支援事業所が受け取る基本報酬は、利用者の就職・定着実績に応じて7段階に分かれています。就職率が高ければ報酬も高く、低ければ低くなります。

ただし、就職実績がゼロであっても、最低区分の報酬(1日1人あたり479単位)は入り続けます。定員20人の事業所であれば、就職者ゼロのままでも月に150〜200万円程度の収入が確保できる計算になります。

これが問題の根です。利用者を就職させなくても、「通所してもらうだけ」で事業は成立してしまう。そういう構造が、制度の中に組み込まれているのです。

■ 私が6年前に感じた「違和感」

ここで少し、私自身の体験をお話しします。

私は車椅子ユーザーです。約6年前、就職を目指して、複数の就労移行支援事業所を見学して回りました。バリアフリーの確認と、自分の障害に合ったプログラムがあるかを確かめるためです。

見学の中で、あるものを感じました。「これで、本当に就職につながるのだろうか」という違和感です。

一見すると和やかな雰囲気で、利用者もそれなりにいる。でもプログラムの内容を見ると、就職に直結しない作業が多く、企業との接点もほとんど見えない。試しに「就職率はどれくらいですか」と尋ねると、はっきりしない答えが返ってくる事業所がいくつかありました。

率直に言うと、「利用者を就職させることより、登録者を確保して報酬を得ることを優先しているのではないか」と感じました。

■ 「就職したい」という切実な思いが、利用される

もう一つ気になったのは、そうした事業所の利用者の顔ぶれでした。知的障害のある方と思われる利用者が多く、家族に連れられてきている様子も見受けられました。

「なんとか就職してほしい」「将来が心配だ」という家族の切実な思いは、誰にでも想像できます。ところが、事業所を選ぶにあたって、就職率や支援の質を正確に比較できる情報は、ほとんど整備されていません。

現在、国の制度として「障害福祉サービス等情報公表制度」があり、WAMNETというサイトで事業所の情報を検索することができます。しかし、財務情報を公表している事業所は全体の約4割にとどまっており、就職率の算出方法も事業所によってバラバラです。

つまり、利用者や家族は「比較できない状態」で事業所を選ばざるを得ない。そこに、営業が上手なだけの事業所が入り込む余地が生まれています。

■ 国の対応は始まっているが、課題は残る

2024年4月の報酬改定では、就労移行支援の基本報酬が全区分で引き上げられ、減算ルールも強化されました。また2025年10月には「就労選択支援」という新しい制度が始まり、どの就労系サービスが自分に合っているかを中立的にアセスメントする仕組みが生まれました。

2025年11月には、厚生労働省が就労継続支援向けの指導ガイドラインを発出し、「簡単に高収益が得られる」とうたう悪質なコンサル経由の安易な事業所開設に警戒するよう、自治体に呼びかけました。

ただ、就労移行支援については、「就職率ゼロが3年続いても退場させる仕組み」はまだ制度化されていません。A型のように客観的な指定基準違反を数値で示しにくいこともあり、問題が見えにくい状態が続いています。

■ 6年前から、何が変わったのか

就労継続支援A型の「約2割が基準未達」という報道に接したとき、私が最初に思ったのはこの問いでした。

6年前に私が見学した事業所の一部で感じた違和感——「就職させることより、登録者を確保することが目的になっているのではないか」という感覚——は、制度の構造的な問題から生まれていたのだと、今は分かります。そしてその構造は、A型も就労移行支援も、根っこは同じです。

障害のある方が「就職したい」と思って扉を叩いた先に、その思いを真剣に受け止める事業所があるのか。それとも、その思いを「登録者確保」に使う事業所があるのか。

制度の数字の裏側に、当事者の現実があります。そのことを、私たちは問い続けなければならないと思っています。

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