【就労継続支援A型事業所の問題――150億円不正受給が暴いた、障害福祉制度の「抜け穴」】

■ 前代未聞の巨額不正受給が明らかになった

2026年3月27日、大阪市はある福祉関連会社グループに対し、行政処分の中で最も重い「指定取り消し」を下したと発表しました。処分を受けたのは、「絆ホールディングス」傘下の4つの就労継続支援A型事業所です。

不正受給の総額は、約150億円。

大阪市への請求分だけで約79億円、全国75の自治体への請求分と合わせるとその額に達します。大阪市はペナルティを上乗せした約110億円の返還を請求し、刑事告訴についても検討中とのことです。4事業所は2026年4月末で閉鎖されることになり、利用者1,000人以上が突然、行き場を失うことになりました。

なぜ、これほどの不正が可能だったのか。それを理解するためには、まず「就労継続支援A型」という制度の仕組みを知る必要があります。

■ 就労継続支援A型とはどんな制度か

就労継続支援A型とは、一般企業への就職が難しい障害のある方が、福祉事業所と「雇用契約」を結びながら働くことができる、国の制度に基づいた福祉サービスです。

この「雇用契約を結ぶ」という点が、同じ就労系サービスであるB型との最大の違いです。雇用契約を結ぶということは、利用者は法律上「労働者」として扱われます。そのため、事業所は都道府県が定める最低賃金以上の賃金を支払う義務があります。

事業所には、利用者との雇用関係を維持しながら生産活動(農業、軽作業、飲食、IT業務など)を行い、その収益から賃金を支払うことが求められています。加えて国から「訓練等給付費」という報酬も支払われます。

さらに、利用者が一般企業へ就職し、6か月以上定着した場合には「就労移行支援体制加算」という追加の報酬が支払われます。就職に成功した人数が多いほど、翌年度にもらえる加算額が大きくなる仕組みです。

本来この加算は、「障害のある方を一般就労につなげた実績」に対する正当な評価です。しかし絆ホールディングスは、この加算を「循環」させることで巨額の報酬を不正に得ていました。

■ 「36ヶ月プロジェクト」という手口

大阪市によって明らかにされた手口は、「36ヶ月プロジェクト」と呼ばれるものでした。

具体的にはこうです。A型事業所の「利用者」を、同じグループ内の別の事業者のもとで半年以上「スタッフ」として雇用します。そうすると、制度上は「一般就労に定着した」とみなされ、加算金を受け取れます。その後、その人を「利用者」に戻し、再びスタッフとして雇用する——この繰り返しによって、加算金を積み増していたのです。

グループ内の4事業所では、それぞれ年間100〜250人が一般就労したとして申請していました。しかし大阪市は、「本来一般就労するところに到達していない人を、自社雇用という形で就労扱いにして加算を請求した」として不正と認定しました。

通常、A型事業所1人あたりの月間給付金は全国平均20万円前後とされています。しかし、報道によれば絆グループの一部事業所では1人あたり月200万〜300万円台に達するケースが多く、全国平均の10〜15倍という異常な水準でした。

■ 約2割の事業所が「指定基準未達」

絆ホールディングスの問題は極端な事例ですが、就労継続支援A型全体の構造的な問題は、これだけにとどまりません。

2026年4月、厚生労働省の調査に基づく報道で、全国のA型事業所のうち約2割(19.3%)が国の定める指定基準を満たしていないことが明らかになりました。

A型事業所の指定基準には、「生産活動によって得た収益から必要経費を引いた額が、利用者に支払う賃金の総額以上でなければならない」というルールがあります。つまり、事業所が自力で稼いだお金で利用者の賃金をまかなう必要があるのです。

この基準を満たせていない事業所が5か所に1か所の割合で存在しており、さらに問題なのは、基準未達の事業所の約6割が「前年も同じ状態だった」という点です。一時的な経営悪化ではなく、基準を下回っていることが「常態化」しているのです。

■ なぜ基準を満たさなくても存続できるのか

では、指定基準を満たさない事業所が、なぜ長期間にわたって存続し続けられるのでしょうか。

一つには、国から支払われる訓練等給付費があります。利用者が通所しているだけで基本的な報酬が入ってくる仕組みがあるため、生産活動の収益が赤字でも、給付費で赤字を補填する形で運営を続けることができてしまいます。

本来これは禁じられています。制度では「利用者への賃金を訓練等給付費から支払うことは原則禁止」とされています。しかし実態として、生産活動で収益が出ない事業所が、給付費を原資に賃金を払い続けているケースが長年にわたって指摘されてきました。

もう一つの問題は、指定権者(都道府県や政令指定都市など)の監督体制のばらつきです。基準未達の事業所には「経営改善計画書」の提出が求められますが、計画を出し続けるだけで実質的な是正が進まない事例が多く見られています。

■ 「高収益が得られる」と宣伝して事業者を集めるコンサルの問題

2025年11月、厚生労働省は「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」を自治体向けに発出しました。

このガイドラインの中で、厚労省は注目すべき表現を使っています。「特段の知識等がなくとも事業所の運営は可能であり、高収益が実現できる」などとうたい、安易な事業所の開設を勧めるコンサルタントの存在を明示的に問題視したのです。

つまり、就労継続支援A型という制度が、障害のある方への支援を目的としたものであるにもかかわらず、投資対象としての「ビジネス」として参入を促す動きが横行しているということです。そのような動機で開設された事業所が、利用者の支援よりも給付費の確保を優先するのは、ある意味で当然の帰結かもしれません。

■ 制度の「性善説」が悪用を許した

今回の絆ホールディングス問題について、大阪市の担当者は「制度の抜け穴をつかれた」と表現しました。

日本の障害福祉制度は、基本的に「事業者は正しい支援を行う」という性善説に基づいて設計されています。就労移行支援体制加算についても、「利用者が本当に一般就労を達成したかどうか」を細かく確認する仕組みが十分ではありませんでした。同一グループ内での「利用者とスタッフの往復」という手口が2年以上続けられたのは、この確認体制の甘さが背景にあります。

前例がないわけでもありません。2017年には「あじさいの輪」という事業者が同様の構造的問題で指定取り消しを受けています(不正額は約1.37億円)。あれから約9年、問題は是正されないどころか、規模は100倍以上に膨れ上がりました。

■ 被害を受けたのは、利用者たちだ

この問題で最も忘れてはならないのは、直接の被害を受けたのが利用者の方々であるということです。

事業所が突然閉鎖されることで、1,000人を超える利用者が行き場を失いました。「次の賃金が出るのかどうかもわからない」という不安の声が報道でも伝えられています。障害のある方にとって、生活リズムと就労の場を突然失うことの影響は計り知れません。

また、今回の事件が社会的に注目されることで、誠実に支援を行っている多くのA型事業所まで、疑いの目で見られかねないという問題もあります。制度への信頼が揺らぐことは、まじめに取り組む事業者にとっても、利用者にとっても大きな損失です。

■ 問われているのは制度の設計そのものだ

今回の問題を受けて、厚生労働省は2026年6月から、新規指定を受けるB型事業所などを対象に基本報酬の引き下げを実施する異例の措置を取ります。また、A型についても就労移行支援体制加算の算定要件の見直しが進められています。

ただ、制度の根本的な問いはまだ答えが出ていません。「給付費が原資になっている限り、事業所の生産活動が実態を伴わなくても存続できてしまう」という構造は、部分的な加算見直しだけでは解決しません。

障害のある方が「働きたい」「稼ぎたい」という思いで足を踏み入れた場が、給付費を効率よく集めるためのビジネス装置になっていたとしたら——それは、制度の失敗です。そして制度の失敗は、設計した国の責任でもあります。

「障害者の就労支援」という看板の裏で何が起きているのか。私たちは、当事者の視点からこの問題を見続けなければならないと思っています。

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