9月は障害者雇用支援月間です。この時期になると、法定雇用率(企業に義務づけられた、全従業員に占める障害者の割合の最低基準)の達成状況が話題になります。しかし就労は、雇用されることがゴールではありません。雇用されて初めて、これから始まる就労のスタートラインに立てたのです。だからこそ、数字の先にあるものこそ、いま真剣に語られるべきだと感じています。
■数字は伸びている。それでも半数が届かない
2025年6月時点で、民間企業に雇用されている障害者は70万4,610人。過去最高を更新しました。一方で実雇用率は2.41%にとどまり、法定雇用率を達成している企業は46.0%。そして障害者を1人も雇用していない企業が3万7,262社、未達成企業全体の57.3%を占めています。
2026年7月からは法定雇用率が2.7%に引き上げられ、義務の対象も常用労働者37.5人以上の企業へと広がりました。制度上の基準は上がっても、現場が追いついていない。これが今の日本の姿です。
■企業の本音は「差別」ではなく「不安」
各種調査や報道で聞こえてくる企業の声は、決して冷たいものばかりではありません。「どう扱っていいかわからない」「何かあったときに対応できる自信がない」「教える余裕がない」。 そこにあるのは障害者への嫌悪ではなく、未知への不安です。
実際、雇用の経験がない企業ほど不安は大きく、経験を重ねた企業ほど「真面目で丁寧」「長く勤めてくれる」と評価が現実的になります。つまり、壁は障害そのものではなく、経験の有無にあるのです。
■「雇われた後」に起きていること
もう一つ、見過ごされがちな現実があります。当事者が語る問題の多くは、就職そのものではなく、その後に集中しているという事実です。
任される仕事が単純作業ばかりで能力を生かせない。賃金が低く、昇進や正社員登用の道がない。「数合わせで雇われた」と感じてしまう。合理的配慮(障害のある人が働くうえでの障壁を取り除くための個別の調整)を求めても「わがまま」と受け取られる。上司が代われば、せっかくの配慮も引き継がれない。
そして最も深刻なのが、孤立です。休憩時間に誰とも話さない。困っても言い出せない。あるいは、相談しても真剣に対応してくれない。雇用契約の上では確かに「働いている」。しかしそれは、共に働いていると言えるでしょうか。
■理解と支援、二つが揃ってはじめて成り立つ
私は、より多くの障害者が一般社会の中で働くために特に必要なことが、二つあると考えています。
一つは、周囲の健常者が障害を理解し、これから出てくる問題を共に乗り越えていこうとする姿勢。もう一つは、業務の節々で支えてくれる人の存在です。
どんなに働きたい気持ちがあっても、ある一つの動きができないために、その先の業務に進めないことがあります。そこに手を貸してくれる人が職場にいるかどうかで、働ける範囲はまったく変わります。 実は、こうした役割はすでに制度として用意されています。
・職場支援員(企業が自社に配置する支援担当者。助成金の対象になります) ・ジョブコーチ(職場適応援助者。外部機関から職場を訪問し、本人と企業の双方を支援する専門職) ・障害者職業生活相談員(障害のある社員を5人以上雇用する事業所に選任が義務づけられている相談役) ・職場介助者や手話通訳者の配置への助成制度
問題は、これらが十分に知られていないことです。特に中小企業では「人を一人つける余裕がない」と諦められがちですが、外部のジョブコーチを頼るところから始めることもできます。
■支援役は「壁」ではなく「ハブ」に
ただし、一つ気をつけたいことがあります。支援する人を置いたとき、その人が窓口になりすぎると、かえって職場が分断されてしまうことがあるのです。「あの人に任せておけばいい」となり、周りの社員が関わらなくなる。
理想は、支援役が本人と職場の間に立つ壁ではなく、周囲の理解を広げていくハブとして機能することです。日々の小さなやり取りが職場全体に開かれていくとき、理解と支援という二つの要素が、はじめて一つにつながります。
■「違いを前提にした職場」へ
障害者雇用の負担は、障害そのものより、仕事とのマッチングと受け入れ体制で決まる部分が大きいと言われます。業務を切り出し、手順を見える化する過程で、職場全体の効率が上がった例も少なくありません。互いに配慮し合う文化は、高齢の社員にも、育児や病気を抱える社員にも生きてきます。
必要なのは、障害者のための特別な配慮を増やすことではなく、違いがあることを前提にした職場へ作り替えていくことではないでしょうか。 いつか「障害者雇用」という言葉が使われなくなり、ただ「雇用」と呼ばれる日が来ること。それが、本当の意味で共生が実現した社会の姿だと、私は思います。