【障害者雇用代行サービスから考える、「共に働く」ということ】

■『障害者雇用代行サービス』って“何?”

「障害者雇用代行サービス」という言葉をご存じでしょうか。

これは、障害者を雇うことが難しい企業に代わって、外部の事業者が働く場所と仕事を用意し、採用から日々の管理までを引き受ける仕組みです。そのため、雇用契約は企業と結びますが、勤務場所や仕事内容は多くの場合、企業の施設や本来の事業とは異なり、事業者が運営する農園やサテライトオフィス(本社とは別の場所に設けられた小さな事務所)などで働くことになります。

厚生労働省によると、2025年10月末時点で、このサービスを提供する事業者は46社、利用する企業は1800社以上あり、そこで働く障害者は1万1000人以上で、いずれも急速に増えています。事業者の数は、2023年3月末の23社から2年半ほどで倍増しました。働く場所は全国に221カ所あり、私の住む神奈川県にも26カ所と、全国でも上位の数が集まっています。これは決して遠い場所の話ではありません。

このような取り組みは、一見すると、障害者の働く場を広げる仕組みにも見えますが、別の角度から見ると、わざわざ外部の事業者にお金を支払い、障害者の仕事を丸投げしているようにも見えます。

さらに、障害者を雇用しながら、障害者の仕事を委託するという、非合理的にも見える雇用形態が、ビジネスとして成立し、広がっていることに違和感を覚えざるをえません。

なぜ、企業は、障害者雇用代行サービスを利用するのでしょうか。

■障害者雇用促進法

企業が障害者を雇用するのには理由があります。

それが、障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)です。これは、一定規模以上の企業に対し、従業員のうち決められた割合以上の障害者を雇うよう義務付けるもので、この割合を法定雇用率(法律で定められた障害者の雇用割合)といいます。この割合を満たさない企業は、雇入れ計画作成命令、最終的な企業名の公表といった行政指導の対象となります。さらに、従業員100人を超える企業には、不足する障害者1人につき月額5万円の納付金を納める義務が発生します。

法定雇用率は、2026年7月には2.7%へと引き上げられ、対象も従業員37.5人以上の企業へと広がっています。

厚生労働省が出した「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業で働く障害者は70万4610人と過去最高になっています。しかし、実雇用率(実際に雇っている割合)を見ると2.41%で前年と同じ水準にとどまり、法定雇用率を達成している企業は46.0%と、半数にも届いていません。

■企業の本音は

厚生労働省の「令和5年度 障害者雇用実態調査」では、障害者を雇う上での課題として、障害の種類を問わず70〜80%の企業が「障害者に合った仕事が社内にあるかどうか」を挙げています。

しかしそれ以前に、特に障害者を一度も雇用したことがない企業であればなおさらですが、知識や経験が乏しい企業では、「障害者に合った仕事があるのかを判断すること」自体が難しいというのが実態に近いと感じます。国も、障害者を1人も雇っていない企業などに対し、ハローワーク(公共職業安定所)が関係機関と連携して支援にあたる体制をとっています。

ただ、このような理由だけでは、企業が障害者雇用代行サービスを利用する強い動機にはなりません。実際、国の資料で利用企業を規模別に見ると、従業員1000人以上の大企業が38.9%を占める一方、100人未満の企業は3.4%にすぎません。人材も資金もある大企業ほど、このサービスを多く利用しているのです。この事実は、「受け入れる力がないから」という理由だけでは説明しきれないと思います。

これは私の推測ですが、お金を払ってでも障害者と働くことを避けようとする背景には、「任せられない」「効率が下がる」「どう接していいか分からない」といった、障害者に対する思い込みや不安があるのではないでしょうか。

法定雇用率は上がり続けるのに、社内には受け入れる仕組みや、受け入れようとする意識も育っていない。この板挟みの中で、仕事も場所も管理もまとめて用意してくれる代行サービスが、手早い解決策として選ばれてきたのだと思います。

■見過ごせない問題点

障害者雇用代行サービス自体は、現在の法律では違法ではありません。また、そこで働く人たちが自分に合った環境で働いていること自体を否定するつもりもありません。私が問題だと感じているのは、働く人ではなく、この仕組みそのものと、それを成り立たせている社会の捉え方です。

国の研究会の報告書では、農園で作られた野菜が利用企業の本業では使われず、社員に配られたり、場合によっては捨てられたりしている事例が指摘されています。

さらに国の資料には、事業者のホームページに「就職先の企業は選べません」という趣旨の記載や、企業向けの説明に「無期転換ルール(有期契約が5年を超えると、本人の申し出で期間の定めのない雇用に切り替わる制度)の適用リスクがない」という趣旨の記載があったことも示されています。実際に、5年に達する前に契約を終わらせ、別の利用企業へ移す例も見つかっています。働く本人は勤め先を選べず、どの企業にも長く雇われることがない。私には、障害者が「人」ではなく、ただ雇用率を満たすためだけの「数合わせの道具」として扱われているように見えてしまうのです。

ただ、これを事業者だけの責任と考えるのは早計かもしれません。「長く雇う責任は負いたくない」とする企業の需要があるからこそ、それに応える仕組みが商品として成り立つのです。事業者の業界団体自身も、国の研究会に提出した資料の中で、一部の質の低い事業者が企業の本音に応じて丸投げを引き受け、不適切な運用が生じていることを認めています。問題の根は、事業者と企業の双方、そしてそれを許してきた社会の側にあるのだと思います。

数字の上では障害者の雇用が増えていても、企業の法定雇用率を満たすために外に用意された囲いの中に障害者を集め、社会に貢献できているのかすら曖昧な働き方をさせているとしたら、果たしてそれを雇用と呼べるのでしょうか。また、そこで働く人々はやりがいや社会とのつながりを感じることができるのでしょうか。

報告書は、こうした形が「障害の有無にかかわらず共に働く」という理念から離れていると述べています。

企業の社員と障害者の接点がほとんどない障害者雇用代行サービスでは、企業は「知る機会」を得ることのないまま雇用率だけを満たし、障害者への偏見や不安を解消せずに、問題を片付けることができます。そして、このような形だけの雇用が広がれば、障害者を社会からより見えにくい場所へ隔離する構造が、常態化してしまうのではないかと危惧しているのです。

国もこの状況を問題視しており、2026年8月には、厚生労働省が代行事業者に事業開始時の届け出を義務付けることや、不適切な事業者への指導・勧告を含む規制案を示しました。障害者雇用代行サービスは、今まさに社会のあり方が問われている問題なのです。

■障害者も働く理由は同じ

2024年に障害者団体きょうされん(障害者が通う事業所などで構成する全国組織)が公表した「障害のある人の地域生活実態調査」では、福祉サービスを利用している障害者の約8割(78.6%)が、相対的貧困ラインを下回る収入であるという結果が出ました。2016年に公表された前回調査でも81.6%で、状況はほとんど改善されていません。障害者が就労する場や機会を得ることは難しく、就労することができたとしても、十分な収入を得られないことが少なくないのが現状です。

つまり、現代においても、多くの障害者が人目に触れることのない社会の影で、貧困に耐えながら生きており、障害者こそ就労する機会や場を必要としているのです。法定雇用率により、社会に障害者を雇用する企業が増え、定着していくことは非常に喜ぶべきことです。ですが、毎日取り組み対価を得るものだからこそ、障害者の仕事の内容も、やりがいや社会とのつながりを感じることのできる内容であってほしいと思うのです。

人が働く理由は何でしょうか。

①生きていくための手段:食べていくため、生活を成り立たせるための営みです。

②自分を形にする研鑽:何かを作り、残し、それを通して「自分とは何者か」を世界に示す。つまり自己表現と自己肯定の場でもあります。

③社会とのつながり:仕事は、誰かの役に立ち、社会の中に自分の存在意義を確認する場でもあります。収入だけでなく、他人から感謝されることは、自信をもたらし、生きるための大きな原動力となります。逆に、高給でも誰の役に立っているか見えない仕事は、人を空虚にしがちです。

人が仕事に求める要素は、一人ひとり異なりますが、この3つの要素は、仕事を決める上で、どれも外すことのできない重要なものです。それは障害者であっても同じです。

■障害者を戦力化するためにすべき変革

世の中には、実際に障害者を雇用して戦力化できた企業も多くあることをご存知でしょうか。障害者雇用に取り組む企業を対象にした民間の調査(パーソルダイバース、2025年)では、戦力化できた企業の97.5%が、障害者への配慮の負担について「負担以上の効果がある」または「許容できる範囲である」と答えています。

海外にも目を向けると、アクセンチュア(世界的なコンサルティング会社)が2023年に発表した米国企業約350社の分析では、障害者の受け入れに先進的な企業は、そうでない企業と比べて売上高が1.6倍、純利益が2.6倍という結果が出ています。もちろん、業績の良い企業だからこそ障害者雇用に力を注げるという面もあり、「障害者を雇えば業績が上がる」とまでは言えません。それでも少なくとも、「障害者がいると効率が落ちる」という思い込みを裏付けるものではないと私は考えます。

国内にも、そうした思い込みを覆す取り組みがあります。たとえばソフトバンクでは、2016年から、障害により長時間働くことが難しい人が週20時間未満から働ける「ショートタイムワーク」という制度を設けています。人事総務や営業、技術など約30の部署で受け入れ、障害者がほかの社員と机を並べて働いています。担当者は、業務の一部を任せることで、社員がより創造的な仕事に集中できるようになったと話しています。

こうした戦力化に成功した多くの事例に共通するのは、「障害者に合う仕事を探す」のではなく、「仕事のあり方そのものを見直した」ことです。その中で、私は次の3つの転換が大切だと考えています。

①「人に仕事を合わせる」発想へ:日本の雇用は、長時間働けて何でもこなせる人を前提にしがちです。仕事を細かく分けて定義し直せば、「一つの得意」でも活躍できる場が生まれます。これは障害者だけでなく、子育てや介護中の人にも開かれた働き方になります。

②「法令対応」から「経営戦略」へ:人手不足が進む中、障害者雇用を義務ではなく人材確保の手段として捉え直すことで、進む先の景色は大きく変わります。経営トップが「共に働く」と決めて社内に示す姿勢が、実務レベルで「どうすればできるか」という前向きな問いへと変わっていきます。

③「共に働く」で「組織力UP」へ:同じ職場で働き、面談などで一人ひとりを知ることで、任せられる仕事は広がります。また、マニュアル化や見える化といった工夫は、職場全体の働きやすさだけではなく、雇用の定着や互いを支える姿勢など、組織力の強化につながります。

ここで少し、日本全体の働き方に目を向けてみたいと思います。日本人は勤勉でよく働くと言われます。しかし日本生産性本部によると、日本の時間当たり労働生産性は、2024年でOECD(経済協力開発機構)加盟38か国中28位にとどまっています。長く、まじめに働くことが、必ずしも成果に結びついていないのです。その一因として、「長時間働けて何でもこなせる人」を前提にした働き方が指摘されることは少なくありません。

そのように仕事を見ると、最も安定し効率的だと思い込んでいた「長時間働けて何でもこなせる人」だけの集団は、実は仕事のやり方が固定化し、かえって非効率になっているのかもしれません。また、障害者と共に働くために働き方自体を見つめ直すことは、職場環境を最適化することであり、日本の働き方そのものの弱点を見直すきっかけにもなるのではないでしょうか。「健常者だけのチームの方が効率的だ」という思い込みは、「みんなで長く頑張れば成果が出る」という思い込みと、同じ根を持っているように思えます。

■「障害者雇用」という言葉がいらない社会へ

障害者雇用代行サービスの広がりは、私たちの社会が、障害者とどう向き合ってきたのかを映し出す鏡なのかもしれません。見たくないものを遠ざけるように、囲われた場所に障害者を集めることは、「共に働く」という理念とは真逆の発想です。

「障害」を個人の問題として捉えるのではなく、社会や環境の問題として捉える。これを「障害の社会モデル(障害は本人の心身だけでなく、社会の仕組みや環境によって生まれるという考え方)」といいます。たとえば、段差があるから車いすの人が通れないのであって、段差をなくせば「障害」はなくなるといった発想です。

職場も同様に、仕事の分け方や働き方など、障害者が積極的に働くことのできるよう障壁を取り除くことは、障害者だけでなく多くの人が力を発揮することのできる環境をもたらします。そして、仕事の最適化という新しい視点を育むきっかけにもなるはずです。このような働き方は、障害者の「特別」を「普通」に変えることができるのではないでしょうか。

その時「障害者雇用」という言葉が、過去に使われていた「特別」な言葉になるのかもしれません。

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